改訂版天女座物語2
〜毎日新聞のコラムより〜

天女座の舞台背景は松しかないと思っていた。
しかし、どこで手に入れるか?不可能に近いことで諦めかけて
いた。伊勢神宮で演奏した帰りにタウンページで見つけた骨董や
へ行き、カフェのテーブルにする古材をたくさん買った。
帰ろうとして、ふと束ねられた絵ある板が、気になって
「おじさん、これ何?」と聞いた。「舞台背景の松。」「松!」
「いくら?」「五万円」「五万円??」あまりの安さに思わず
「買う!」。トンちゃん(夫)は「たくさん板を買ったんだからもう
いいじゃない?」と白い目で見ている。全体を見る場所がないので、
見ずに買って帰って工事中の天女座で広げてみてあっと言った。
素晴らしい老松。今は無き老舗の伊勢やさんの松。
「すごい!」とトンちゃん。「参ったか!」と私。「参りました!」
それに何と!サイズがぴったりと天女座の舞台にはまったのだ。
それから何ヶ月かして、元伊勢やさんのご主人を探し出会うことが
出来た。
旅館を辞めてパソコン教室を開いていたご主人はインターネットに
アクセスして、松と対面。「あの松は物心ついた時からずっと見て
きたので、舞台が壊されて剥がされていた時は、涙が出ました。
もうとっくの昔に松の板が焚き木になっていたと思っていた。」と
涙を浮かべ、「よかった!よかった!」と喜んでくれた。
「琴の名手の宮城道雄さんが、この前で演奏した由緒ある松です。
昔は、伊勢音頭を踊ってそりゃ華やかでした。」
「宮城道雄さん???へえーっ。そりゃあ、すごい!」鳥肌が
立ったくらいびっくり。
骨董やのおじちゃんに「何でそんなすごい板を安くしてくれたん?」
と聞くと「ほんまはな、五十万て言いたかったんや。でもあんたたち
金がなさそうやったし。」とニヤリ。いいおっちゃんやなあ!
確か、舞台の松には、神が宿ると聞いた。檜の板に描かれた松は
神様からのプレゼントだったと思っている。