改訂版天女座物語6
〜毎日新聞のコラムより〜

「ここ、こんなに景色よかった?私ここで働いていたけどこんなに景色がよくなかったよ。」と工事中の天女座に地元の中森千恵さんがニコニコしながらやってきた。
それもそのはず、窓の無い壁に大きく窓を開け、竹を伐採して、やっと百八十度の海が見られるようになったのだから。
「厨房には地元の人を使わない方がいいよ。情報が筒抜けになるから。」と忠告してくれた人もいた。
逆に私は厨房には、絶対地元の人に来て貰おうと考えていた。千恵さんに来て貰えないかなあ?と何回も打診した。
「出来るかなあ?」と言葉をにごして中々うんと言ってくれなかった。
やっと千恵さんが承諾し天女座で働いてくれるようになった。
十五年間民宿でも働いていたという一を聞いて十を知る千恵さんは、暇な時でも掃除をしたり、ゴミを片付けたりと片時も休まない。私のことは、娘のように思ってくれて何かをこぼすと「ホレホレホレ」と雑巾を持って走って来て「孫に言うようだなあ。」と皆で大笑いになった。
市民会館で演奏している姿を見て「我が子が演奏して間違えやせんかと冷や冷やしたわ。母は感動して涙がでたよ。」と涙ぐみ、私達夫婦がコンサートツアーに出ようとすると「あんたたち、ご飯食べたの?お金持った?」厨房でお湯を沸かして開店の準備をしていると「おりこうねえ。」
ゆっこさんという裁縫もプロ、お花を活けても一流のおばちゃんも厨房に加わり、にぎやかになった。ホールでのコンサート前にウエイトレスをしていて「あのーそろそろ演奏に行ってもいいかな?」と私が遠慮気味に聞くと「いいよ!」
少人数でやっているので混んでくるとパニックになり、注文を間違えると私がカフェにある楽器を弾きながら「すみません!」と謝る。お客さんも「急いでないから。」と笑顔。千恵さんは、「いろんな人が来て楽しい!」と顔をほころばせた。千恵さんはどんどん若くなっている。